甘い言葉が花のように咲き乱れ、緩を鮮やかに彩る世界。何もかもを受け入れてくれて、決して否定されることのない密やかな花園。微睡みのように心地良く、春のように麗らかな甘美。夢も現も関係ない。ただ一人、緩のためだけの浮遊空間。
外界の侵入など、許されない世界。
「入ってくるなと」
全身が震える。
「言っているのに」
床に座り込んだまま、怒りと恥じらいで声も震える。
「どうして入ってきたのですかっ!」
一方、聡はようやく状況を把握する。
自分を見下し、学校ではデカい態度。廿楽という権力に媚を売る義妹の、これが本当の姿なのか。
目の前のやや青ざめた表情が、聡に下卑た感情を与える。
「これって、恋愛ゲーム?」
緩の質問なぞ完全に無視した聡の声には、粘りを含んだ侮蔑が潜む。
「お前、こんなのにハマってんだ」
「関係ないでしょっ!」
怒りに任せて怒鳴り散らすが
「そんな大声出してもいいのかよ? おふくろに気づかれるぜ」
誰にも知られたくないんだろ?
そう言いたげな瞳にギリリと歯を噛む。
「恋愛ねぇ」
屈辱だ。まさか一番嫌う義兄にバレようとは。
悔しくて悔しくて、頭が回らない。許されるのなら、思いっきり引っ叩いてやりたい。
「サイテー」
「はぁ?」
「他人の部屋に入り込むなど、最低っ!」
「サイテーか」
鼻で笑う。
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
侮蔑に憤怒が含まれる。
「美鶴を陥れやがって」
口にすると、怒りが増す。
「美鶴がお前を殴っただと?」
「本当ですわ」
「ウソだっ!」
ギュッと拳を握る。気を抜くと、聡こそ相手を殴ってしまいそうだ。
「嘘ではありませんっ!」
「でも、立てねぇほど暴行したってのは嘘だっ!」
「嘘ではありませんっ!」
「嘘じゃねぇ? じゃあどこをどう殴られたのか言ってみろっ!」
聡の一喝に、緩は身を跳ね上がらせる。
この人は怖い。
恐怖に慄く相手にも構わず、聡はさらに視線を険しくさせる。
「言ってみろ? 一方的に殴られたんだろ? 痣ぐらい残ってるはずだよなぁ? 医務室で手当ては受けたのか? 見せてみろよ?」
伸ばされる腕を払いのけ
「触らないでくださいませ。変態っ!」
「変態はどっちだ?」
画面を一瞥し
「殴られたワリには元気だよな。くだらねぇ恋愛ゲームでノロける元気はあるってのかよ?」
侮辱されて気色ばむ緩の顔を半眼で見下ろし
「撤回しろ」
地を這うような低い声。
「今すぐに撤回しろ。美鶴に殴られた事、今すぐに撤回するんだっ!」
「できませんっ」
言い返す。
そうだ。緩にはできない。
これで大迫美鶴は自宅謹慎。山脇瑠駆真と引き離したのだ。嘘だろうがでっちあげだろうが、そんな事はもうかまわない。
もう手段なんて選んではいられない。
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